今年の2歳世代からサンデー産駒が不在となり、新たな時代の幕開けを告げる象徴となるべく朝日杯は、7頭の新種牡馬をはじめ多彩な顔ぶれの種牡馬の産駒が出走し、まさに種牡馬戦国時代の幕開けを感じさせるものとなった。
また、以前の朝日杯と言えば、下記で示すように外国産馬がその完成度の高さを活かし、大挙出走するという特徴があったが(11頭出走した1997年は掲示板を独占)、その外国産馬の出走も年々減ってきており、今年はついに1頭のみとなってしまった。
このことからも、内国産種牡馬をはじめとした日本の種牡馬のレベルが向上し、日本競馬が新たな時代に入っていることを表していると言えるだろう。
(外国産馬の朝日杯出走頭数 2005年3頭、2004年3頭、2003年3頭、2002年6頭、2001年6頭、2000年5頭、1999年8頭、1998年5頭、1997年11頭)
さて、その種牡馬新時代到来を示すようなこのレースを制したのは、父がサンデー直仔のステイゴールドで、さらに母父がメジロマックイーンというドリームジャーニーだった。
ドリームジャーニーは、スタートで1馬身ほど出遅れ、道中は最後方からの競馬になったものの、父ステイゴールド譲りの416キロしかない小柄でありながらも全身をバネのようにしならせ、メンバー中断トツで最速の3F34秒0という上がりタイムの末脚を繰り出し、大外から全馬をまとめて差し切ってしまった。
まるでドリームジャーニー1頭だけが違う競馬をしているような別次元の切れ味だった。
蛯名が「軽く飛んでいるみたいだった」と表現したのも頷ける。
2~6着を4コーナーで5番手以内にいた馬が占める中、追い込んで上位に来たのはこの馬だけで、しかも直線、手前を替えずにこの切れ味。
まさに、このメンバーでは、別次元の強さであった。
もちろんこの勝利は馬の能力によるところが大きいが、その能力を最大限に出し切った蛯名の大胆な好騎乗が、この馬を勝利に導いたとも言えるだろう。
1000メートルの通過タイムが58秒9とペースは決して速くなかった。
それにも関わらず、向正面では逃げるオースミダイドウから16~17馬身も離れた最後尾をポツンと1頭で追走していた。
それでもこの馬の能力・切れ味を十分に掴んでいた蛯名は「自信を持って、後ろからでも落ち着いて乗った。切れを信用していた。出すのは直線だけで十分と思っていた」とまったく慌てずに、腹を決めて、折り合いに専念にしていた。
この絶対的な信頼は前走東スポ杯2歳Sでの敗戦から得たものであった。
出負けして向正面で引っ掛かる大きなロスがありながら、ゴール前400メートルで推定11秒前半を2度刻み、接戦の3着に頑張った。
「あれでこの馬は走ると再認識した」と蛯名は語っていたが、その持ち味を引き出すために、ラスト400メートルに全てを賭けるという思い切った作戦がズバリと的中したのだ。
圧倒的な1番人気の馬がマイペースで逃げている、しかも直線の短い中山コース、さらにオーバーシードによってきれいに生えそろった逃げ先行馬が有利の馬場。
これらの条件を普通に考えれば、あのような後方から直線一気というような大胆な競馬はできないだろう。
もっと早めに仕掛けるのが当たり前の騎乗だからだ。
もし、蛯名がそのような当たり前の騎乗をしていたら、あの馬の持ち味が殺され、あの末脚は繰り出されなかっただろう。
まさに、この馬の能力・持ち味を掴んでいるからこそ出来た蛯名の思い切った騎乗がこの勝利を生み出したのだ。
さすが、トップジョッキー。当たり前の騎乗しかできずに、成績が上がらない騎手とは違って、その幅が広い。
これで、ドリームジャーニーは2歳王者に君臨したわけだが、クラシック制覇に向け課題がないわけではない。
距離が伸びて、ハイペースになった場合、今回のような凄まじい切れ味の末脚が使えるかどうかだ。
切れ味を武器とする馬の場合、スローペースで馬群が凝縮した場合がもっともその持ち味が活きるレース展開である。
距離が伸びて、ハイペースになった場合に、この馬の真価が問われるだろう。
それと他馬と併走した場合にかかってしまわずに、落ち着いて走れるか。
小柄な馬だけに馬込みに入ったときに、怯んでしまわないか。などの課題が挙げられる。
タイプ的に皐月賞向きとは言えないが、ステイゴールド、ディクタス、メジロマックイーンといったスタミナ豊富な種牡馬の名前が並ぶ血統面から距離延長は問題ないだろう。
また、ノーザンテーストの4 x 3というクロスからは、成長力も十分に期待できる。
ドリームジャーニーの「夢の旅」はどこまで行くのかその将来性が本当に楽しみだ。
「夢の旅」はまだ始まったばかりだ・・・。
2着のローレルゲレイロは力を出し切っての結果だけに、この敗戦は仕方ないだろう。
中間ハードに追われて長距離輸送がありながら馬体重は14キロ増の472キロだったように、ここにきての成長は目覚しいものがあり、来年はさらなる飛躍が期待できそうだ。
単勝2.1倍の断然人気を集めたオースミダイドウは、逃げて3着に敗れた。
3、4コーナーでは外へ逃げ気味になるなど、精神面の若さ、弱さを露呈した。
パドックでも激しくチャカつき、返し馬でも頭を高く上げて鞍上の指示に逆らい、まともな返し馬ができずに、ゲートに入る前には汗びっしょりで馬体が光っていた。
この激しい気性面からも、さらに母父Storm Catで母ストームティグレスもスプリント戦で3勝した馬という血統面からも、クラシックというタイプではまったくなく、また今回の内容からもクラシック云々言えるレベルに達していないのは明らか。
マイル戦ですら折り合いに苦労するという現状では、まずマイル戦で力を出し切れるだけの精神面の成長が必要だろう。
将来的にもマイル路線で力を発揮するのだろう。
距離体系が明確に確立された今、マイラーを無理に条件が厳しいクラシック戦線に乗せようとするのではなく、クラシックに固執せずにマイラーはマイラーとして早くから育て上げていくという考え方がこれからの競馬では必要になってくるだろう。
そんなことを書いていると、オースミダイドウ骨折のニュースが入ってきた…。
残念…。
4着フライングアップル、5着マイネルレーニアは力を出し切った。現状ではこの程度だろう。
6着マイネルシーガルは、プラス10キロという馬体重が示すとおり、少し重かったようだ。
中間楽をさせ、直前の追い切りも軽かった影響が出たようだ。
今年のマイネル軍団2歳勢の中で、岡田総帥が最も期待するこの馬の今後に注目だ。
アロマンシェスは、この大舞台でまた出遅れ癖が出てしまった・・。
それでも、直線はドリームジャーニーに次ぐ上がり(34.6)で馬群の間を縫うように伸びて、14番人気という低すぎる評価を覆す7着まで追い上げた。
もっとスムーズに競馬が出来ていれば・・と思ってしまうが、それでもよくやってくれたと思う。
前走に続き、重賞でも十分通用する能力があることをまた証明してくれた。
自己条件戦ならあっさり勝てる力があるのは明白だが、この出遅れ癖が直らない限り、自己条件でも取りこぼしてしまう恐れがあるだろう。
今週のひいらぎ賞の登録頭数が30頭であるように、500万下クラスでも出走が難しくなっていく中で、収得賞金が中央で1勝した馬より少ないという地方出身のこの馬にとって、今後のNHKマイルに向けてのローテーションを組みやすくするためにもなるべく早く収得賞金を加算しておきたいところ。
出遅れ癖の解消、つまり精神面の成長がこの馬の出世の鍵を握っていると言えるだろう。
「ゲートの不利に加え直線もスムーズさを欠いた。でも1戦ごとに良くなっている」(勝浦騎手)
現役時代に日本で走った種牡馬の仔が大挙出走し、その中で、ステイゴールドとメジロマックイーンを管理した池江泰郎師の息子の池江泰寿師が、両馬の血を継ぐ馬で、その馬の父ステイゴールドが勝った思い出深い香港ヴァーズの行われた日に初GI制覇を成し遂げる。
つくづく競馬にはドラマやロマンといったものが溢れていると感じた今年の朝日杯であった・・・。