2008年 06月 14日
安田記念 回顧 |
1番人気がコロコロと入れ替わり、混戦模様と目された今年の安田記念。
前週のダービーの回顧で指摘したように、インコースが伸びるという傾向が続く今の東京コース。開催が進んだことで、さすがに3~4コーナーの内ラチ沿いは荒れていたが、その傾向はまだ続いていた。
ダービーでは、ディープスカイの絶対的な能力の高さに加え、四位の冷静で大胆な瞬時の判断が勝利に貢献した。
「外が伸びないのは、それまでのレースで分かっていたが、内がごちゃついていたし、せっかくのダービーで不利を受けて終わるのはバカらしいから」と敢えて外に持ち出した四位の「瞬時の判断」を、岡部幸雄氏もギャロップ誌上で賞賛していた。
そして、ダービーとは距離、通ったコースは違えど、この安田記念の覇者も騎手の冷静、緻密かつ大胆な騎乗に導かれた絶対的な能力を持つ馬だった。
<緻密な分析によって実現した好騎乗>
歴史的名牝ウオッカの鞍上に指名され、この一戦に並々ならぬ決意で挑んだ岩田。
レース前夜には、ウオッカの過去全レースのVTRを何度も見て、レースの作戦を立てた。さらに当日は芝の状態を入念にチェック。安田記念の直前の10Rでは、最内を逃げて、インコースが伸びることを再確認した。
「見た目以上に内が硬かった。馬場を見てもう内しか通る気はなかった。内枠なら先行と最初から決めていた」とは岩田の言葉。もう腹は決まっていた。
そうするのが好きとかスタイルとかそういった子供じみた低レベルな考えからではなく、週末2日間の騎乗を通じ、念入りに馬場状態を見極めた岩田の判断だった。
「内は外より伸びるってジョッキーと話をしていました」とは角居師。
開催が進んだ今の東京コースは、3~4コーナーの内ラチ沿いはさすがに馬場が荒れているが、そのラチから1頭分だけ芝が生えている部分があり、またインコースの馬場は固くなっていた。そこを狙った岩田の騎乗は、内枠に入ったことを存分に活かした好騎乗だった。
このレースを勝つためにはどうしたらいいかという事を様々な要因から分析し、作戦を立て、最高の仕事をした岩田。
騎手としては当然の事ながら、まさに“一戦必勝”を徹底的に追い求めた姿勢が好騎乗を生んだ。
<持ち前の爆発力が蘇ったウオッカ>
内枠から好スタートを決めたウオッカ。
ここで、戦前の予想通りコンゴウリキシオーがハナを主張。
外枠のアルマダが好ダッシュから競るように行く構えを見せ、藤田が懸命に押している。
その一方で、ウオッカと岩田は楽に先頭に立つ勢い。
元来、行きたがる気性のウオッカであるが、この行きっぷりの良さは、心身の充実の表れなのだろう。
岩田は、そのウオッカをなだめるように、3番手に控える。
先頭のコンゴウリキシオーは、ほぼ正確に11.5秒前後を刻むこの馬らしいワンペースの逃げで、後続を3馬身程引き離して逃げる。
昨年より0.4秒遅い57.9秒で1000mを通過。
昨年とは馬場状態が違うので、この通過タイムだけでは単純に比較できないが、前後半のラップでは、今年が(34.6-34.8)、昨年が(34.1-34.8)。
コンゴウリキシオーにとって、今年は昨年より楽なペースの逃げ。
そのコンゴウリキシオーから離れた後方にいたグループはさらに楽なペース。
ウオッカは、この流れにうまく乗り、きちんと折り合っていた。
つまり、このレースにおいては、岩田の選択した先行策がピタリと的中した。
そして、直線もレース前の作戦通り「伸びるインコース」へとウオッカを導く。
後は、もう、ウオッカの独壇場。
岩田の振り上げるムチなど意味も無い程の凄まじい伸び脚で後続を一気に突き放す。
岩田流の表現では、「チョー速え~!!抜け出すときの感触はバキューン!!って感じ」
彼は、ウオッカの凄まじい「瞬発力」、「爆発力」を表現したかったのだろう。
それこそ、ウオッカの「凄さ」であり、「持ち味」でもある。
競馬評論家の丹下日出男氏の評論にもあったが、
ウオッカのラスト2Fの推定ラップが10秒9-11秒7。
岩田が表現した「バキューン!!」は、この1ハロン推定10秒9という瞬発力を指すのだろう。
ウオッカのラスト2Fの推定ラップを見ても分かるように、さすがにこの凄まじい「爆発力」を持続することは難しい。その爆発の威力が凄まじいからこそ生じる代償とも言える。
この類まれな瞬発力をどこで使うか、またそれを爆発させるために、それまでにいかにうまく脚をタメられるか、そしてどうやって少しでも持続させられるかということが今後もウオッカに騎乗する上でポイントになってくる。
特に、距離が延びた場合、あるいは相手関係が強化された場合に、それがより重要になってくる。
鋭い伸び脚で追い込みながら最後にパタッと止まった昨年のジャパンCでも、岡部氏が「あまりに瞬発力がありすぎて、一気に脚を使うから、その反動で止まってしまう」と評していたように、類まれな「瞬発力」があるだけに、使いどころの難しいウオッカの「瞬発力」、「爆発力」をどう活かすか、さらにかかり癖のあるウオッカをどう御すかということが距離の延びた場合、相手関係が強化された場合の課題となる。
実際、今回のレースでも、ウオッカの上がり3ハロンのタイムは抜けて速いという訳ではなかった。エアシェイディと同タイム、スズカフェニックスと0.1秒差だった。ウオッカが抜けて速かったのは、ラスト2F目に記録した10.9秒というタイムなのだろう。持ち前の瞬発力で一気に抜け出すと、後はそのリードを守るだけ。だからこそ、今回のレースでは、岩田の位置取り、コース取りの巧さが効果的だった。
今回のウオッカの素晴らしい走りを見て、単純に考えてしまうと、「こういう勝ち方が出来ればもうこれからは敵無しだ」、「マイルならまた今回のような乗り方でいい」ということになるのだろうが、そう短絡的にはいかない。
前述したウオッカの持ち味である「瞬発力」、「爆発力」を活かす乗り方をするには、当然のように、枠順、展開などによって臨機応変に変えていかなければならない。
例えば、同じ東京マイルでも今回とはまったく異なる条件、外枠に入った場合やハイペースになった場合などでは、また違った乗り方が必要になってくる。
「内枠なら先行と最初から決めていた」という岩田のコメントからも推測できるように、もし外枠だったら、岩田も違った乗り方を考えていたのだろう。
外枠だったらすんなりと折り合えていなかったかもしれない。外枠では行きたがる馬に対し、前に壁を作ってなだめるという乗り方がしづらいからである。
また、もしハイペースになっていたら、先行してあれだけの「瞬発力」を繰り出せたかも分からない。
実際、ドバイでのレースがそうだった。
それがまたウオッカの難しさでもある。
柏木集保氏もウオッカをこう評している
「次にまた先行策を取り入れたからといって、それが成功するとはとても思えないのがウオッカの難しさだろう」
私は、レースを分析する際、評論家の見解には、謙虚に耳を傾け、そして参考にしている。
中には、ど素人でありながら、あたかも自分は競馬に詳しいんだと言わんばかりに、あの評論家はこう言っているがあれは違うと、評論家の見解に対し、わざわざ名指しして異を唱える者もいるが、大体その意見は的外れなものばかりである。
やはり、我々一般の競馬ファンは、日々競馬に関わる仕事に従事している人の見解には謙虚な姿勢で耳を傾けるべきだろう。
またそれが自分にとって益となる。
<超一流馬ウオッカ>
レース後、興奮気味に語る岩田の表情が、「超一流」の能力を持つウオッカから受けた衝撃を物語っていた。
また、彼は、ウオッカをあの世界的な名馬アドマイヤムーンと同等だと絶賛した。
紛れもなく、ウオッカは、「超一流馬」であり、「歴史に残る名牝」である。
それは、仮にウオッカが今後まったく勝てなくても変わりはない。
「超一流馬」と認めるというのはそういうものである。
少し負けが続いたらからといって「一流馬」に評価を下げたり、また強い勝ち方をしたら、再度「超一流馬」へ格上げといったような類のものではない。
後続を3馬身ぶっちぎった破格の強さ。
念入りに作戦を立て、ウオッカの能力を十分に発揮した岩田の好騎乗による部分もあるが、それはウオッカ自身の絶対的な能力の高さがなければ成し得ない決定的な着差でもある。
誰の目にも明らかだったように、ウオッカの状態は前走から良化していた。
とにかく、これが大きかった。
ウオッカ本来の力が出せれば、今回のメンバーでは力が抜けていることが証明された結果だった。
私は、前走ヴィクトリアマイルの回顧の中で、“超一流馬”ウオッカの巻き返しはあると書いていたが、早速その力を証明してくれたわけだ。
ダービーの後は、思うような結果の出ないレースが続いていたウオッカに対し、その結果だけを単純に見て、ウオッカは、「成長力に乏しい」、「超一流馬というほどではない」などという声が上がっていた。
あげくの果てには、俺はもうこの早い段階から見切っていたと言わんばかりに是見よがしに「秋華賞でウオッカの能力に限界を感じた」などというとんでもない見方さえあった。
1回のレースだけを見て、短絡的にこのような誤った見方をしてしまうのは、おそらく単純にその結果だけを見て、馬を機械のように見てしまうからなのであろう。
馬を見る目がないと言うより、そもそも馬そのものを見ていないのかもしれない。
再三再四、書いているが、馬は毎回力を出し切ってくれるとは限らない。
ウオッカの場合も、宝塚記念での敗戦を境にリズムが狂ってしまったのか、レースで思うように力を出し切れなくなっていただけで、決して能力に陰りが出たという訳ではなかった。
昨夏の右後肢の蹄球炎、エ女王杯前の右寛ハ行と、立て続けに肉体的なアクシデントにも見舞われ順調さを欠き、そして、精神面の問題から生じるのであろう、折り合いに対する不安もあった。
機械のように物理的に故障を治しさえすれば、全能力が出せるようになるとは限らないのが生きた競走馬の難しさ。
前述のように、単純に結果だけを見てしまうと、例えば、ダービーで大敗したサクセスブロッケンをダート馬だ!とすぐに決め付けてしまう。
だが、ダービーの回顧でも書いたが、サクセスブロッケンの大敗の原因として、芝適性云々の前に初めて経験する戸惑いや恐怖といった気持ちの部分にも目を向けなければならない。
そのことは、岡部幸雄氏もギャロップ誌の中で指摘していた。
生きた競走馬が走る競馬は、机上の論理で簡単に能力を数値化して予想が当たる程単純ではない。その奥の深さがまた競馬のおもしろさでもある。
<2着アルマダ>
注目の香港勢は大きく明暗を分けた。5番人気のアルマダが2着に入った。
アルマダは、好スタートからハナに立つ勢いだったが、コンゴウリキシオーの藤田が何が何でもという感じでハナを主張したので、控えて2番手。この位置につけたことで、外枠スタートながらインコースをロスなく回れた。さらにコンゴウリキシオーからは間隔を空け、マイペースをキープしたことが最後の踏ん張りに繋がった。
「4コーナーで荒れた馬場を気にしていたので、直線は馬場のいいところに出す必要があった」とのホワイト騎手のコメント通り、直線は迷わずに「伸びる内」へと導いた。後続の追撃を振り切ることができたのは、これまで何度も東京コースで騎乗し、このコースをよく知るホワイト騎手の好騎乗によるところが大きい。
これまでのコース経験に加え、ホワイト騎手は、土曜日から何レースも騎乗機会に恵まれ、今の東京コースの「インコースが伸びる」という芝の特徴を掴むことができたことも好騎乗に繋がった。
位置取り、ペース、コース取りなど、ホワイト騎手の東京コースでの経験に基づく見事な騎乗がアルマダに2着という好結果をもたらした。
混戦の2着争いでは、その位置取り、コース取りが大きく左右した。
4着エアシェイディ、5着スズカフェニックスは外から追い上げたが、アルマダに1馬身程届かず。外枠スタートから後方に下げ、道中は外を回り、直線も内ほど伸びない外に出したことが響いた。両馬とも枠順、展開、馬場状態に恵まれれば、2着までならあっただろう。
また、エアシェイディは、レース前のイレ込みも影響した。
レース前に緊張してしまい、本来の力をレースで発揮できないことがこれまでも多々あったが、既に7歳になりながら、依然、精神面の弱さが改善されていないようだ。
今回も馬房からかなり緊張していたとのこと。
以前から言われているように素質的にはGI級のものを持っているが、そういった精神面の課題が解消されないうちはGI云々言えない。
逆に、精神面が成長すれば、GIレースでも勝ち負けになるはず。
後藤が話したように、「この馬は、元々、叩いてよくなるタイプ」
約3ヶ月ぶりの実戦でありながらの4着という結果は、健闘したとも言える。
6着のコンゴウリキシオーは、本来の出来にはない状態で、よく頑張った。
この馬の状態を考え、昨年ほど積極的に飛ばさず、抑え気味に逃げた藤田の好騎乗も大きい。
昨年のこのレースで2着に入って以降は、芝で結果が出ていないが、体調不良が原因で、決して力が衰えているとわけではないだろう。
年齢に関係なくありがちな、激走の後の反動が長引いているのか。
Northern Dancerの血を主体とした血統背景からは、6歳でもまだまだ十分やれるはずで、今回をきっかけにもう一花咲かせて欲しいところ。
スーパーホーネットは最終的に1番人気になったが、その期待を大きく裏切る8着。やや出負けしたが、致命的なほどのものではなかった。直線で馬群の中から伸びかけたが、残り200mで止まった。「あと1Fで脚が上がって…」とは藤岡の弁。前走で見せた末脚を発揮できずに終わった。
前走後は、美浦に滞在し、馬体回復を狙ったが、増えたのは4キロだけ。
「美浦に滞在させて結果を出そうと頑張ったんですが、調教師の腕が悪かったんでしょうね。もう一度やり直します」と矢作師が自嘲気味に語ったように、ローテーションを含めた臨戦過程にも問題があったかもしれない。
輸送に不安のある馬を短期間で2度の輸送を強いたローテーションはやや無理があったか。結果、前走では馬体が減り、美浦滞在という苦肉の策を取らざるを得なくなってしまった。
圧倒的な強さで完勝した前走の後、美浦滞在という異例の策にも「準備万端。これで死角はほとんどなくなった」という楽観的な声がごく一部で上がっていたが、そもそも美浦滞在という選択は、そうしたくてそうしたのではなく、そうせざるを得ない状況に追い込まれてしまった苦肉の策だったわけで、楽観視できる材料などではなかった。馬体重こそ回復したが、慣れない環境に日々溜まっていたストレスが今回の大敗の一因にあったかもしれない。
いづれにせよ、輸送云々言っているような段階では、真の強さがあるとは言えない。陣営に苦肉の策を取らせたこと自体が、この馬の脆さを表している。
この馬には、輸送にも動じない強い精神力を身に付けてもらいたい。
「秋は関西(マイルCS)なのでまた頑張ります」という矢作師が言うように、輸送に不安のあるスーパーホーネットにとって、マイルCSは今回より都合のいい舞台。秋こそ初GI制覇を期待したい。
3番人気に推されたグッドババは、15キロの馬体減に加え、イレ込みと発汗が酷く、レース前にすでに戦いが終わっていた。万全の体調ではなかったようだ
前週のダービーの回顧で指摘したように、インコースが伸びるという傾向が続く今の東京コース。開催が進んだことで、さすがに3~4コーナーの内ラチ沿いは荒れていたが、その傾向はまだ続いていた。
ダービーでは、ディープスカイの絶対的な能力の高さに加え、四位の冷静で大胆な瞬時の判断が勝利に貢献した。
「外が伸びないのは、それまでのレースで分かっていたが、内がごちゃついていたし、せっかくのダービーで不利を受けて終わるのはバカらしいから」と敢えて外に持ち出した四位の「瞬時の判断」を、岡部幸雄氏もギャロップ誌上で賞賛していた。
そして、ダービーとは距離、通ったコースは違えど、この安田記念の覇者も騎手の冷静、緻密かつ大胆な騎乗に導かれた絶対的な能力を持つ馬だった。
<緻密な分析によって実現した好騎乗>
歴史的名牝ウオッカの鞍上に指名され、この一戦に並々ならぬ決意で挑んだ岩田。
レース前夜には、ウオッカの過去全レースのVTRを何度も見て、レースの作戦を立てた。さらに当日は芝の状態を入念にチェック。安田記念の直前の10Rでは、最内を逃げて、インコースが伸びることを再確認した。
「見た目以上に内が硬かった。馬場を見てもう内しか通る気はなかった。内枠なら先行と最初から決めていた」とは岩田の言葉。もう腹は決まっていた。
そうするのが好きとかスタイルとかそういった子供じみた低レベルな考えからではなく、週末2日間の騎乗を通じ、念入りに馬場状態を見極めた岩田の判断だった。
「内は外より伸びるってジョッキーと話をしていました」とは角居師。
開催が進んだ今の東京コースは、3~4コーナーの内ラチ沿いはさすがに馬場が荒れているが、そのラチから1頭分だけ芝が生えている部分があり、またインコースの馬場は固くなっていた。そこを狙った岩田の騎乗は、内枠に入ったことを存分に活かした好騎乗だった。
このレースを勝つためにはどうしたらいいかという事を様々な要因から分析し、作戦を立て、最高の仕事をした岩田。
騎手としては当然の事ながら、まさに“一戦必勝”を徹底的に追い求めた姿勢が好騎乗を生んだ。
<持ち前の爆発力が蘇ったウオッカ>
内枠から好スタートを決めたウオッカ。
ここで、戦前の予想通りコンゴウリキシオーがハナを主張。
外枠のアルマダが好ダッシュから競るように行く構えを見せ、藤田が懸命に押している。
その一方で、ウオッカと岩田は楽に先頭に立つ勢い。
元来、行きたがる気性のウオッカであるが、この行きっぷりの良さは、心身の充実の表れなのだろう。
岩田は、そのウオッカをなだめるように、3番手に控える。
先頭のコンゴウリキシオーは、ほぼ正確に11.5秒前後を刻むこの馬らしいワンペースの逃げで、後続を3馬身程引き離して逃げる。
昨年より0.4秒遅い57.9秒で1000mを通過。
昨年とは馬場状態が違うので、この通過タイムだけでは単純に比較できないが、前後半のラップでは、今年が(34.6-34.8)、昨年が(34.1-34.8)。
コンゴウリキシオーにとって、今年は昨年より楽なペースの逃げ。
そのコンゴウリキシオーから離れた後方にいたグループはさらに楽なペース。
ウオッカは、この流れにうまく乗り、きちんと折り合っていた。
つまり、このレースにおいては、岩田の選択した先行策がピタリと的中した。
そして、直線もレース前の作戦通り「伸びるインコース」へとウオッカを導く。
後は、もう、ウオッカの独壇場。
岩田の振り上げるムチなど意味も無い程の凄まじい伸び脚で後続を一気に突き放す。
岩田流の表現では、「チョー速え~!!抜け出すときの感触はバキューン!!って感じ」
彼は、ウオッカの凄まじい「瞬発力」、「爆発力」を表現したかったのだろう。
それこそ、ウオッカの「凄さ」であり、「持ち味」でもある。
競馬評論家の丹下日出男氏の評論にもあったが、
ウオッカのラスト2Fの推定ラップが10秒9-11秒7。
岩田が表現した「バキューン!!」は、この1ハロン推定10秒9という瞬発力を指すのだろう。
ウオッカのラスト2Fの推定ラップを見ても分かるように、さすがにこの凄まじい「爆発力」を持続することは難しい。その爆発の威力が凄まじいからこそ生じる代償とも言える。
この類まれな瞬発力をどこで使うか、またそれを爆発させるために、それまでにいかにうまく脚をタメられるか、そしてどうやって少しでも持続させられるかということが今後もウオッカに騎乗する上でポイントになってくる。
特に、距離が延びた場合、あるいは相手関係が強化された場合に、それがより重要になってくる。
鋭い伸び脚で追い込みながら最後にパタッと止まった昨年のジャパンCでも、岡部氏が「あまりに瞬発力がありすぎて、一気に脚を使うから、その反動で止まってしまう」と評していたように、類まれな「瞬発力」があるだけに、使いどころの難しいウオッカの「瞬発力」、「爆発力」をどう活かすか、さらにかかり癖のあるウオッカをどう御すかということが距離の延びた場合、相手関係が強化された場合の課題となる。
実際、今回のレースでも、ウオッカの上がり3ハロンのタイムは抜けて速いという訳ではなかった。エアシェイディと同タイム、スズカフェニックスと0.1秒差だった。ウオッカが抜けて速かったのは、ラスト2F目に記録した10.9秒というタイムなのだろう。持ち前の瞬発力で一気に抜け出すと、後はそのリードを守るだけ。だからこそ、今回のレースでは、岩田の位置取り、コース取りの巧さが効果的だった。
今回のウオッカの素晴らしい走りを見て、単純に考えてしまうと、「こういう勝ち方が出来ればもうこれからは敵無しだ」、「マイルならまた今回のような乗り方でいい」ということになるのだろうが、そう短絡的にはいかない。
前述したウオッカの持ち味である「瞬発力」、「爆発力」を活かす乗り方をするには、当然のように、枠順、展開などによって臨機応変に変えていかなければならない。
例えば、同じ東京マイルでも今回とはまったく異なる条件、外枠に入った場合やハイペースになった場合などでは、また違った乗り方が必要になってくる。
「内枠なら先行と最初から決めていた」という岩田のコメントからも推測できるように、もし外枠だったら、岩田も違った乗り方を考えていたのだろう。
外枠だったらすんなりと折り合えていなかったかもしれない。外枠では行きたがる馬に対し、前に壁を作ってなだめるという乗り方がしづらいからである。
また、もしハイペースになっていたら、先行してあれだけの「瞬発力」を繰り出せたかも分からない。
実際、ドバイでのレースがそうだった。
それがまたウオッカの難しさでもある。
柏木集保氏もウオッカをこう評している
「次にまた先行策を取り入れたからといって、それが成功するとはとても思えないのがウオッカの難しさだろう」
私は、レースを分析する際、評論家の見解には、謙虚に耳を傾け、そして参考にしている。
中には、ど素人でありながら、あたかも自分は競馬に詳しいんだと言わんばかりに、あの評論家はこう言っているがあれは違うと、評論家の見解に対し、わざわざ名指しして異を唱える者もいるが、大体その意見は的外れなものばかりである。
やはり、我々一般の競馬ファンは、日々競馬に関わる仕事に従事している人の見解には謙虚な姿勢で耳を傾けるべきだろう。
またそれが自分にとって益となる。
<超一流馬ウオッカ>
レース後、興奮気味に語る岩田の表情が、「超一流」の能力を持つウオッカから受けた衝撃を物語っていた。
また、彼は、ウオッカをあの世界的な名馬アドマイヤムーンと同等だと絶賛した。
紛れもなく、ウオッカは、「超一流馬」であり、「歴史に残る名牝」である。
それは、仮にウオッカが今後まったく勝てなくても変わりはない。
「超一流馬」と認めるというのはそういうものである。
少し負けが続いたらからといって「一流馬」に評価を下げたり、また強い勝ち方をしたら、再度「超一流馬」へ格上げといったような類のものではない。
後続を3馬身ぶっちぎった破格の強さ。
念入りに作戦を立て、ウオッカの能力を十分に発揮した岩田の好騎乗による部分もあるが、それはウオッカ自身の絶対的な能力の高さがなければ成し得ない決定的な着差でもある。
誰の目にも明らかだったように、ウオッカの状態は前走から良化していた。
とにかく、これが大きかった。
ウオッカ本来の力が出せれば、今回のメンバーでは力が抜けていることが証明された結果だった。
私は、前走ヴィクトリアマイルの回顧の中で、“超一流馬”ウオッカの巻き返しはあると書いていたが、早速その力を証明してくれたわけだ。
ダービーの後は、思うような結果の出ないレースが続いていたウオッカに対し、その結果だけを単純に見て、ウオッカは、「成長力に乏しい」、「超一流馬というほどではない」などという声が上がっていた。
あげくの果てには、俺はもうこの早い段階から見切っていたと言わんばかりに是見よがしに「秋華賞でウオッカの能力に限界を感じた」などというとんでもない見方さえあった。
1回のレースだけを見て、短絡的にこのような誤った見方をしてしまうのは、おそらく単純にその結果だけを見て、馬を機械のように見てしまうからなのであろう。
馬を見る目がないと言うより、そもそも馬そのものを見ていないのかもしれない。
再三再四、書いているが、馬は毎回力を出し切ってくれるとは限らない。
ウオッカの場合も、宝塚記念での敗戦を境にリズムが狂ってしまったのか、レースで思うように力を出し切れなくなっていただけで、決して能力に陰りが出たという訳ではなかった。
昨夏の右後肢の蹄球炎、エ女王杯前の右寛ハ行と、立て続けに肉体的なアクシデントにも見舞われ順調さを欠き、そして、精神面の問題から生じるのであろう、折り合いに対する不安もあった。
機械のように物理的に故障を治しさえすれば、全能力が出せるようになるとは限らないのが生きた競走馬の難しさ。
前述のように、単純に結果だけを見てしまうと、例えば、ダービーで大敗したサクセスブロッケンをダート馬だ!とすぐに決め付けてしまう。
だが、ダービーの回顧でも書いたが、サクセスブロッケンの大敗の原因として、芝適性云々の前に初めて経験する戸惑いや恐怖といった気持ちの部分にも目を向けなければならない。
そのことは、岡部幸雄氏もギャロップ誌の中で指摘していた。
生きた競走馬が走る競馬は、机上の論理で簡単に能力を数値化して予想が当たる程単純ではない。その奥の深さがまた競馬のおもしろさでもある。
<2着アルマダ>
注目の香港勢は大きく明暗を分けた。5番人気のアルマダが2着に入った。
アルマダは、好スタートからハナに立つ勢いだったが、コンゴウリキシオーの藤田が何が何でもという感じでハナを主張したので、控えて2番手。この位置につけたことで、外枠スタートながらインコースをロスなく回れた。さらにコンゴウリキシオーからは間隔を空け、マイペースをキープしたことが最後の踏ん張りに繋がった。
「4コーナーで荒れた馬場を気にしていたので、直線は馬場のいいところに出す必要があった」とのホワイト騎手のコメント通り、直線は迷わずに「伸びる内」へと導いた。後続の追撃を振り切ることができたのは、これまで何度も東京コースで騎乗し、このコースをよく知るホワイト騎手の好騎乗によるところが大きい。
これまでのコース経験に加え、ホワイト騎手は、土曜日から何レースも騎乗機会に恵まれ、今の東京コースの「インコースが伸びる」という芝の特徴を掴むことができたことも好騎乗に繋がった。
位置取り、ペース、コース取りなど、ホワイト騎手の東京コースでの経験に基づく見事な騎乗がアルマダに2着という好結果をもたらした。
混戦の2着争いでは、その位置取り、コース取りが大きく左右した。
4着エアシェイディ、5着スズカフェニックスは外から追い上げたが、アルマダに1馬身程届かず。外枠スタートから後方に下げ、道中は外を回り、直線も内ほど伸びない外に出したことが響いた。両馬とも枠順、展開、馬場状態に恵まれれば、2着までならあっただろう。
また、エアシェイディは、レース前のイレ込みも影響した。
レース前に緊張してしまい、本来の力をレースで発揮できないことがこれまでも多々あったが、既に7歳になりながら、依然、精神面の弱さが改善されていないようだ。
今回も馬房からかなり緊張していたとのこと。
以前から言われているように素質的にはGI級のものを持っているが、そういった精神面の課題が解消されないうちはGI云々言えない。
逆に、精神面が成長すれば、GIレースでも勝ち負けになるはず。
後藤が話したように、「この馬は、元々、叩いてよくなるタイプ」
約3ヶ月ぶりの実戦でありながらの4着という結果は、健闘したとも言える。
6着のコンゴウリキシオーは、本来の出来にはない状態で、よく頑張った。
この馬の状態を考え、昨年ほど積極的に飛ばさず、抑え気味に逃げた藤田の好騎乗も大きい。
昨年のこのレースで2着に入って以降は、芝で結果が出ていないが、体調不良が原因で、決して力が衰えているとわけではないだろう。
年齢に関係なくありがちな、激走の後の反動が長引いているのか。
Northern Dancerの血を主体とした血統背景からは、6歳でもまだまだ十分やれるはずで、今回をきっかけにもう一花咲かせて欲しいところ。
スーパーホーネットは最終的に1番人気になったが、その期待を大きく裏切る8着。やや出負けしたが、致命的なほどのものではなかった。直線で馬群の中から伸びかけたが、残り200mで止まった。「あと1Fで脚が上がって…」とは藤岡の弁。前走で見せた末脚を発揮できずに終わった。
前走後は、美浦に滞在し、馬体回復を狙ったが、増えたのは4キロだけ。
「美浦に滞在させて結果を出そうと頑張ったんですが、調教師の腕が悪かったんでしょうね。もう一度やり直します」と矢作師が自嘲気味に語ったように、ローテーションを含めた臨戦過程にも問題があったかもしれない。
輸送に不安のある馬を短期間で2度の輸送を強いたローテーションはやや無理があったか。結果、前走では馬体が減り、美浦滞在という苦肉の策を取らざるを得なくなってしまった。
圧倒的な強さで完勝した前走の後、美浦滞在という異例の策にも「準備万端。これで死角はほとんどなくなった」という楽観的な声がごく一部で上がっていたが、そもそも美浦滞在という選択は、そうしたくてそうしたのではなく、そうせざるを得ない状況に追い込まれてしまった苦肉の策だったわけで、楽観視できる材料などではなかった。馬体重こそ回復したが、慣れない環境に日々溜まっていたストレスが今回の大敗の一因にあったかもしれない。
いづれにせよ、輸送云々言っているような段階では、真の強さがあるとは言えない。陣営に苦肉の策を取らせたこと自体が、この馬の脆さを表している。
この馬には、輸送にも動じない強い精神力を身に付けてもらいたい。
「秋は関西(マイルCS)なのでまた頑張ります」という矢作師が言うように、輸送に不安のあるスーパーホーネットにとって、マイルCSは今回より都合のいい舞台。秋こそ初GI制覇を期待したい。
3番人気に推されたグッドババは、15キロの馬体減に加え、イレ込みと発汗が酷く、レース前にすでに戦いが終わっていた。万全の体調ではなかったようだ
by masa_ishizawa
| 2008-06-14 23:34
| レースの感想