2006年 09月 21日
~ “泥んこプリンセス”サチノスイーティーの挑戦 ~ |
先週、メルマガ版の方で掲載したコラムを紹介します。
☆★☆ 思い入れコラム ☆★☆
泥んこ馬場を駆け抜けた少女のひと夏の夢
~ “泥んこプリンセス”サチノスイーティーの挑戦 ~
今年の夏、一頭の地味な血統の若い牝馬がスポットライトを浴びた。
彼女の名はサチノスイーティー。
3歳という成長著しい年頃の牝馬だ。
もちろん個体差もあるが、この年頃のサラブレッドは劇的に成長する場合がある。
サチノスイーティーは今年の4月に2勝目を飾ると、その後すぐに放牧に出された。
陣営のこの判断が功を奏し、7月に戦列に復帰したサチノスイーティーは、
馬体重こそ休養前と変わらなかったものの、心身ともリフレッシュして、また成長していた。
そして、古馬初対戦で重馬場となった復帰初戦を出遅れながら見事に制したのだ。
彼女の父カリスタグローリは、現役時代故障もあり短い競争生活に終わった。
GI勝ちもなく、重賞1勝という実績だけで種牡馬になったが、当然のように種付け頭数も恵まれなかった。
しかし、カリスタグローリは毎年コンスタントに堅実に走る産駒を送り出し、ここまで何とか種牡馬として生き残ってきた。
そんなカリスタグローリであったが、重賞勝ち馬はいまだ輩出できていなかった。
復帰初戦を飾ったサチノスイーティー陣営は、格上挑戦となるアイビスSDに果敢に挑戦した。
私はこの挑戦に際し、いきなり重賞で通用するかと危惧したが、レース前に突然降りだした豪雨にも助けられ、
サチノスイーティーは、父カリスタグローリと主戦騎手の鈴来に重賞初制覇をプレゼントした。
続く北九州記念では思わぬ大敗を喫したが、今年から開催されたサマースプリントシリーズの王座を懸け、
今年から国際レースとなり、G2に格上げされたセントウルSに今回挑戦してきたのだ。
だが、さすがに今回は歴戦の強敵が集うこのメンバーでは厳しいだろうというのが、大方の見解であった・・・。
レース前、各馬がパドックを周回する中、突然大雨が降り出してきた。
これはっ・・・!!
サチノスイーティーが見事な勝利を収めたアイビスSDのレース前の再現だ・・・。
歴戦の強敵が集ったメンバーの中で、持ち時計があまりに劣るサチノスイーティーにとって、開幕週で高速決着必死の馬場はいかにも不利だった。
それがこの大雨で一転、勝負気配が漂ってきた。
彼女は道悪のレースを2勝し、このような歴戦の強敵が集うレースに出走できるまで上り詰めてきたのだ。
そんな彼女に天がさらに加勢する。
雨足は弱まるどころか、雷鳴を轟かせますます強くなっていく。
それはまるで歓声と太鼓の響きを交えた天からのサチノスイーティーへの応援のように私には思えた。
馬場もあっという間に、やや重まで悪化した。
それに呼応するように、サチノスイーティーの単勝オッズもどんどん下がっていく。
38倍前後だったものが、この大雨で一気に18倍台まで下がった。
おいおい、これはひょっとして、ひょっとするかもよ・・・
私も期待と何か神がかり的なものを感じながらスタートを待った。
そして、ゲートが開いた。
サチノスイーティーは少し出遅れた。
私はこけた。
その瞬間、過剰気味に大きく膨らんだ私の期待が、まるで風船がパンッと音を立てて割れたかのように一瞬にして萎んだ。
ゲートの開く音が、気体ではなく期待で一杯に膨らんだ風船の割れてしまった音に思えてしまったのだ。
あらら、また、やってしまったか・・・・・。
だが、ここから鈴来は前走のように無理におっつけずに、待機策を取った。
よし、いいぞ。鈴来、慌てるな。
この馬は、抑えてもレースは出来るんだ。
実際、休養明けの古馬初対戦で重馬場となった3走前の白河特別(1000万下)でも出遅れたが、
このときは代役騎乗した吉田隼人が慌てず、騒がずといったような度胸の良い騎乗で、
後方待機から徐々に進出し、メンバー中最速の上がりを繰り出し、見事に差し切って勝っている。
だから前走での大敗の後、スタートで出遅れた後の鈴来の慌てふためいたような強引な騎乗に、私は苦言を呈していた。
だが、鈴来の改心を知ってか知らずか、肝心のサチノスイーティーはいつものように少し行きたがっていた。
鈴来はガッチリと手綱を押さえて彼女を何とかなだめている。
それは、彼女のベストレースと私が思っている4走前の桜草特別(500万下)で、鈴来が見せた好騎乗と同じだった。
そのレースでは、ハナを争う人気馬を先に行かせ、鈴来はサチノスイーティーをその激しい先行争いを繰り広げる馬たちの後ろにつけることで、
彼女を落ち着かせて、脚をためることに成功し、直線で人気馬をまとめて差し切るという見事な勝利に導いていた。
今回も鈴来の指示に納得したサチノスイーティーは、その後は馬込みの中で落ち着き、馬群の後方から追走していた。
4コーナーあたりから馬込みの中を徐々に進出していく。
そして直線を向いた。
まだ馬込みの中にいたサチノスイーティーに、鈴来がゴーサインを出す。
そのときサチノスイーティーの斜め前方にはネイティヴハートがいた。
彼女は待ってましたと言わんばかりに、馬込みに怯むどころか、グイグイと道悪馬場を駆ける。
だが、ゴール前ネイティヴハートとの差が詰まったところで、前が壁になり鈴来は一瞬追えなくなった。
すぐにまた追い出したが、ゴール前ひしめき合う各馬となだれ込むようにゴールした。
5着馬とは半馬身差、2着馬からもわずかな差の6着だった。
上がり3ハロンのタイムは、メンバー中3番目に速いものだった。
サチノスイーティーと鈴来の競馬は、まだ荒削りで課題はいくも残っているが、それでも先に繋がる内容だったと言えるだろう。
レース後、まるで当然のように大雨はぴたりと止んだ・・・・。
サチノスイーティーは走ることが大好きなのだろう。
泥んこ馬場もまったく気にしない。
アイビスSDで出走各馬がもがき苦しむ泥んこ馬場の中を、気持ちよさそうに先頭で駆け抜ける姿を見て、私は彼女に “泥んこプリンセス”という称号を与えた。
天を味方につけ、嵐を呼んでしまう何とも不思議な力を持ち、泥んこ馬場も物ともしないちょっとお転婆なプリンセスだ。
そんな彼女は、手綱を緩めると夢中になって全力で走ってしまう。
直千のレースではそのスピードだけで押し切れるが、オープンクラスの1200m戦はそれだけでは現状厳しいだろう。
今後、サチノスイーティーがオープンクラスで通用するための課題は、良馬場でも通用するスピード能力を高めることはもちろん、
好位できちんと折り合い、直線で差し切るといった“そつの無い競馬”を身に付けることだろう。
その課題をクリアするためには、出遅れ癖のあるサチノスイーティーの気性面の成長はもちろん、鈴来の騎乗技術の成長も必要だろう。
このコンビはまだまだ成長が必要だ。
逆に言えば、このコンビはまだまだ成長できる。
人馬一体となってともに成長していってもらいたい。
そして、泥んこ馬場だけでなく、緑鮮やかなターフの上を歴戦の強豪たちを押さえて、先頭で駆け抜けるサチノスイーティーの姿を見せてもらいたい。
レディーには、泥んこまみれの姿は似合わない。
そのとき、お転婆な“泥んこプリンセス”から気品溢れる“スピード女王”へとその称号が変わるだろう。
彼女はそれを実現する素質を持っていると思う。
そう、“スピード女王”になるんだ。
その期待を込めて、私は敢えてプリンセスとしたのだから・・・。
最後に鈴来騎手のレース後のコメントを紹介します。
「今回は脚をタメて乗ることができました。こういう競馬ができればこの先は楽しみです。」
メルマガ版では毎週、マイナー種牡馬の産駒のレース結果と
マイナー種牡馬を1頭ピックアップして特集する他、
マイナー種牡馬ランキングやマイナー種牡馬産駒番付も掲載しています。
「頑張れ!!マイナー種牡馬とその産駒たち」
のメルマガ版はこちらから無料で登録できます。 バックナンバーも見れます。
http://www.mag2.com/m/0000170640.html
☆★☆ 思い入れコラム ☆★☆
泥んこ馬場を駆け抜けた少女のひと夏の夢
~ “泥んこプリンセス”サチノスイーティーの挑戦 ~
今年の夏、一頭の地味な血統の若い牝馬がスポットライトを浴びた。
彼女の名はサチノスイーティー。
3歳という成長著しい年頃の牝馬だ。
もちろん個体差もあるが、この年頃のサラブレッドは劇的に成長する場合がある。
サチノスイーティーは今年の4月に2勝目を飾ると、その後すぐに放牧に出された。
陣営のこの判断が功を奏し、7月に戦列に復帰したサチノスイーティーは、
馬体重こそ休養前と変わらなかったものの、心身ともリフレッシュして、また成長していた。
そして、古馬初対戦で重馬場となった復帰初戦を出遅れながら見事に制したのだ。
彼女の父カリスタグローリは、現役時代故障もあり短い競争生活に終わった。
GI勝ちもなく、重賞1勝という実績だけで種牡馬になったが、当然のように種付け頭数も恵まれなかった。
しかし、カリスタグローリは毎年コンスタントに堅実に走る産駒を送り出し、ここまで何とか種牡馬として生き残ってきた。
そんなカリスタグローリであったが、重賞勝ち馬はいまだ輩出できていなかった。
復帰初戦を飾ったサチノスイーティー陣営は、格上挑戦となるアイビスSDに果敢に挑戦した。
私はこの挑戦に際し、いきなり重賞で通用するかと危惧したが、レース前に突然降りだした豪雨にも助けられ、
サチノスイーティーは、父カリスタグローリと主戦騎手の鈴来に重賞初制覇をプレゼントした。
続く北九州記念では思わぬ大敗を喫したが、今年から開催されたサマースプリントシリーズの王座を懸け、
今年から国際レースとなり、G2に格上げされたセントウルSに今回挑戦してきたのだ。
だが、さすがに今回は歴戦の強敵が集うこのメンバーでは厳しいだろうというのが、大方の見解であった・・・。
レース前、各馬がパドックを周回する中、突然大雨が降り出してきた。
これはっ・・・!!
サチノスイーティーが見事な勝利を収めたアイビスSDのレース前の再現だ・・・。
歴戦の強敵が集ったメンバーの中で、持ち時計があまりに劣るサチノスイーティーにとって、開幕週で高速決着必死の馬場はいかにも不利だった。
それがこの大雨で一転、勝負気配が漂ってきた。
彼女は道悪のレースを2勝し、このような歴戦の強敵が集うレースに出走できるまで上り詰めてきたのだ。
そんな彼女に天がさらに加勢する。
雨足は弱まるどころか、雷鳴を轟かせますます強くなっていく。
それはまるで歓声と太鼓の響きを交えた天からのサチノスイーティーへの応援のように私には思えた。
馬場もあっという間に、やや重まで悪化した。
それに呼応するように、サチノスイーティーの単勝オッズもどんどん下がっていく。
38倍前後だったものが、この大雨で一気に18倍台まで下がった。
おいおい、これはひょっとして、ひょっとするかもよ・・・
私も期待と何か神がかり的なものを感じながらスタートを待った。
そして、ゲートが開いた。
サチノスイーティーは少し出遅れた。
私はこけた。
その瞬間、過剰気味に大きく膨らんだ私の期待が、まるで風船がパンッと音を立てて割れたかのように一瞬にして萎んだ。
ゲートの開く音が、気体ではなく期待で一杯に膨らんだ風船の割れてしまった音に思えてしまったのだ。
あらら、また、やってしまったか・・・・・。
だが、ここから鈴来は前走のように無理におっつけずに、待機策を取った。
よし、いいぞ。鈴来、慌てるな。
この馬は、抑えてもレースは出来るんだ。
実際、休養明けの古馬初対戦で重馬場となった3走前の白河特別(1000万下)でも出遅れたが、
このときは代役騎乗した吉田隼人が慌てず、騒がずといったような度胸の良い騎乗で、
後方待機から徐々に進出し、メンバー中最速の上がりを繰り出し、見事に差し切って勝っている。
だから前走での大敗の後、スタートで出遅れた後の鈴来の慌てふためいたような強引な騎乗に、私は苦言を呈していた。
だが、鈴来の改心を知ってか知らずか、肝心のサチノスイーティーはいつものように少し行きたがっていた。
鈴来はガッチリと手綱を押さえて彼女を何とかなだめている。
それは、彼女のベストレースと私が思っている4走前の桜草特別(500万下)で、鈴来が見せた好騎乗と同じだった。
そのレースでは、ハナを争う人気馬を先に行かせ、鈴来はサチノスイーティーをその激しい先行争いを繰り広げる馬たちの後ろにつけることで、
彼女を落ち着かせて、脚をためることに成功し、直線で人気馬をまとめて差し切るという見事な勝利に導いていた。
今回も鈴来の指示に納得したサチノスイーティーは、その後は馬込みの中で落ち着き、馬群の後方から追走していた。
4コーナーあたりから馬込みの中を徐々に進出していく。
そして直線を向いた。
まだ馬込みの中にいたサチノスイーティーに、鈴来がゴーサインを出す。
そのときサチノスイーティーの斜め前方にはネイティヴハートがいた。
彼女は待ってましたと言わんばかりに、馬込みに怯むどころか、グイグイと道悪馬場を駆ける。
だが、ゴール前ネイティヴハートとの差が詰まったところで、前が壁になり鈴来は一瞬追えなくなった。
すぐにまた追い出したが、ゴール前ひしめき合う各馬となだれ込むようにゴールした。
5着馬とは半馬身差、2着馬からもわずかな差の6着だった。
上がり3ハロンのタイムは、メンバー中3番目に速いものだった。
サチノスイーティーと鈴来の競馬は、まだ荒削りで課題はいくも残っているが、それでも先に繋がる内容だったと言えるだろう。
レース後、まるで当然のように大雨はぴたりと止んだ・・・・。
サチノスイーティーは走ることが大好きなのだろう。
泥んこ馬場もまったく気にしない。
アイビスSDで出走各馬がもがき苦しむ泥んこ馬場の中を、気持ちよさそうに先頭で駆け抜ける姿を見て、私は彼女に “泥んこプリンセス”という称号を与えた。
天を味方につけ、嵐を呼んでしまう何とも不思議な力を持ち、泥んこ馬場も物ともしないちょっとお転婆なプリンセスだ。
そんな彼女は、手綱を緩めると夢中になって全力で走ってしまう。
直千のレースではそのスピードだけで押し切れるが、オープンクラスの1200m戦はそれだけでは現状厳しいだろう。
今後、サチノスイーティーがオープンクラスで通用するための課題は、良馬場でも通用するスピード能力を高めることはもちろん、
好位できちんと折り合い、直線で差し切るといった“そつの無い競馬”を身に付けることだろう。
その課題をクリアするためには、出遅れ癖のあるサチノスイーティーの気性面の成長はもちろん、鈴来の騎乗技術の成長も必要だろう。
このコンビはまだまだ成長が必要だ。
逆に言えば、このコンビはまだまだ成長できる。
人馬一体となってともに成長していってもらいたい。
そして、泥んこ馬場だけでなく、緑鮮やかなターフの上を歴戦の強豪たちを押さえて、先頭で駆け抜けるサチノスイーティーの姿を見せてもらいたい。
レディーには、泥んこまみれの姿は似合わない。
そのとき、お転婆な“泥んこプリンセス”から気品溢れる“スピード女王”へとその称号が変わるだろう。
彼女はそれを実現する素質を持っていると思う。
そう、“スピード女王”になるんだ。
その期待を込めて、私は敢えてプリンセスとしたのだから・・・。
最後に鈴来騎手のレース後のコメントを紹介します。
「今回は脚をタメて乗ることができました。こういう競馬ができればこの先は楽しみです。」
メルマガ版では毎週、マイナー種牡馬の産駒のレース結果と
マイナー種牡馬を1頭ピックアップして特集する他、
マイナー種牡馬ランキングやマイナー種牡馬産駒番付も掲載しています。
「頑張れ!!マイナー種牡馬とその産駒たち」
のメルマガ版はこちらから無料で登録できます。 バックナンバーも見れます。
http://www.mag2.com/m/0000170640.html
by masa_ishizawa
| 2006-09-21 21:44
| コラム